HYDEウイスキーのモットー
それは「すべては樽で決まる」#itsallaboutthewood

 

よく知られていることですが、ウイスキーの最終的な味わいは、その80%までが、熟成する“ニューメイク”ウイスキーと、その熟成が進む木樽とが相互に与える影響で決まります。

そのため、ハイドでは知識と経験を活かし、木樽管理を重点分野と位置づけています。

ウイスキーの熟成工程は熟成が完成するまで、地域独自の気候やオーク樽の保存や管理の状態など、数多くの微妙かつ繊細な条件に左右されます。

ハイドでは、最上級のアイリッシュウイスキー蒸留所だけで造られた、最上級のアイリッシュウイスキーだけを厳選し、世界中から調達したヴィンテージのオーク樽で仕上げています。

ウイスキーの仕上げ(フィニッシュ)は、主にバーボンとシェリー、ラム、バーガンディの樽で行います。 同時に、ポートやマデイラ、コニャックの樽に加えてビールの樽でも、HYDEウイスキーを熟成する試みを行っています。

  • シェリー カスク フィニッシュ トースティングされたオロロソシェリー ホグスヘッド樽250L スペイン南部カディス県ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ産
  • ダーク ラム カスク フィニッシュ 直火チャーリングされたダークラム樽200L カリブ海バルバドス島産
  • バーガンディ カスク フィニッシュ バーガンディのビンテージ赤ワイン樽(ピノノワール)228L フランス ディジョン近郊コートドール産
  • バーボン バレル バーボン樽200L 米国ケンタッキー州産

充填前のヴィンテージ樽にはハイドならではのチャーリングを施しています。樽の内側を焼いて焦がすこの手法で、奥深い香りや触感、存在感際立つ独特の味わいを合わせ持ち、数々の賞を受賞するウイスキーが生まれます。

私たちは常に時間と手間をかけて世界中からヴィンテージのオーク樽を調達しています。その結果、優れたアイリッシュウイスキーからさらにその美味しさを引き出すことが可能になりました。 HYDEウイスキーが世界的に評価の高い賞をこれほどまで数多く受賞しているのも、そこに理由があります。

 

木樽

オロロソシェリー樽とラム樽はその大半が輸入材のアメリカンオーク(学名:Quercus Alba、クエルクスアルバ)から造られています。 ブナ科コナラ属のオークは、目の詰んだ繊維が年輪の中心から放射線状に数多く走っていますが、この放射組織が他の多くの硬材よりもまっすぐ伸びているため、水漏れしない樽造りに最適な木材になります。

それよりもさらに重要なのはオーク内部にある天然成分です。というのも、熟成するウイスキーに香味や甘味、アロマ、ボディを与えるのが、その天然成分なのです。

米国の法律では、アメリカンバーボンの樽はどれもQuercus Alba(アメリカンホワイトオーク)から製造しなければならないこと、さらに、樽はバーボン熟成に一度しか使用できないことが定められています。 ハイドのウイスキーはすべて、まずアメリカンバーボン樽で熟成してからシェリー樽もしくはラム樽で後熟します。

天然の有機材であるオークは、熟成の進み方に合わせて、ウイスキーと互いに影響していきます。

樽造り

1本の上質なオークの木からは、平均して4個の樽を造ることができます。 ハイドの樽はすべて四つ割です。この製法であれば、構造の堅牢性が増し、厚板の幅の膨張や収縮も軽減されます。

幹を4分割して、切断せずに割り裂くことで樽板の長さを確保します。 この方法であれば、ウイスキーの成熟に重要な木脈を壊さずにすみます。. また、木は乾燥するとポキッと折れやすくなるので、乾燥する前に割り裂きます。

その後、樽板は割り材(メレン)にして、屋外で積み重ねて3~5年寝かせます。時間の経過に伴い、木から染み出す大量のタンニンの反応で色が濃くなり、シルバーグレーに仕上がります。

この期間を終えると、樽板は1枚ずつ検査されて、ようやくかんながかけられます。樽職人(クーパー)が求める仕様通り正確に整えられると、樽の組立に向けて出荷されます。

HYDEシングルモルトウイスキーに独特でふくよかな香味が感じられるのは、こうして細部にこだわり続けているからです。私たちが手掛けるのは並みの良質なウイスキーではありません。アイルランドならではの極上のウイスキーを造りだしているのです。

樽の大きさ

樽の大きさは、ウイスキーの熟成そのものと最終的な香りや味わいの印象に大きく影響します。

丁寧に組み立てられた樽板からは香気成分が抽出され、ウイスキーに溶け込んでいきますが、そのスピードは樽板が原酒に触れる表面積によって変わります。 樽が小さければ、樽板が樽の中のウイスキーに触れる表面積は広くなります。

樽板対原酒の比率が小さめな“ホグスヘッド”は、穏やかなコーク州の気候に適していて良い作用を生み出します。 ハイドで小さめな250Lオロロソシェリー樽と200Lラム樽が使用されているのはそのためです。

240Lの“ホグスヘッド”は、大きさがバレルの2倍、バットの半分、タンの4分の1になります。 この“ホグスヘッド”のシェリー樽は極めて高価ですが、HYDEシングルモルトウイスキーの熟成に使用すると、個性が豊かになり、自然な色が出てくるので、それだけの価値は十分にあります。

樽のチャーリング

ハイドでは、バーボン樽とラム樽に250℃以上で15~45秒間、直火で焼き付けるチャーリングを施します。

この工程には焼きの強度が軽いものから、“ワニの表皮”のような炭の厚い層ができるものまでありますが、いずれの場合も、板の木目を広げて、ウイスキーが中に入り込めるように浸透性を高める役割があります。

樽を250℃でチャーリングするのには理由が3つあります。

1) 活性炭の層を生成するためです。この層が、ニューメイクウイスキーの好ましくない香気物質を取り除きます。

2) 熟成工程の間に、バニリンのような香気成分の放出・溶出効果があるためです。

3) 色とフェノール成分を生成するためです。その結果、ウイスキーとの酸化反応で新たな香味成分が生まれます。

基本的に、チャーリングを施すと、樽材の道管を開きやすくなります。その結果、ウイスキーがオークの深くまで浸透できるようになり、香りを形成するアルデヒドの抽出、バニリンの放出、好ましくない香気物質の吸収が促進されます。

焼き付けの熱で、眠っていた木の成分が活性化し、香り豊かな成分へと変わります。これが、長い熟成の時を経て、ウイスキーへと移ります。 この炭化層は、ニューメイクウイスキーの原酒に含まれていた好ましくない不快な香味と成分も抽出します。

オークは表皮が炭化すると、糖分(ヘミセルロース)の一部をカラメルの香りに変化させます。同時に、水筒や浄水ポットの活性炭フィルターのように働き、ウイスキーに含まれる不快な硫黄臭成分を取り除いてくれます。

チャーリングは、樽造りのなかでも特に、見ていると思わず引き込まれるような工程ですが、想像に違わず、怖い落とし穴が待っています。 それが、火入れ時の樽の温度と火入れ時間の長さです。この2つの要素は、樽がウイスキーに与える最後の香味にわずかながら(しかし確実に)影響します。

一般的に、チャーリングには焼き具合に応じて1から4まで4つのレベルがあります。なお、数字が小さい方が火入りの時間が短く、焼きの強度が弱いことを示しています。

  •      NO. 1 チャー:15秒 軽く焦げた状態。
  •      NO. 2 チャー:30秒
  •      NO. 3 チャー:45秒
  •      NO. 4 チャー:55秒 ワニ皮のように表面に割れ目があるので、“アリゲーター・チャー”と呼ばれる。

焼き付けが弱いと、オークそのもののアロマと風味がより多く残ります(たとえば、少しスパイシー、少し土の香り、ほのかな杉の香り)。 焼き付けが強いと、色付きもカラメル化も増します。 両者の樽の間ではタンニンにも違いが出ます。 焼き付けが強い方が甘くスモーキーな香りがして、よく好まれます。

樽のトースティング

ハイドでは、“ホグスヘッド”のオロロソシェリー樽は100℃から200℃の間で15~35分間トースティングします。

チャーリングよりも時間をかけた優しい火入れは、ライトトースティングからヘビートースティングに分類されます。

トースティング温度の変化によって放出される香味成分

– c/o worldcooperage.com

樽選び

 

 

 

 

シェリー樽

ハイドでは、250Lヴィンテージ“ホグスヘッド”オロロソシェリー樽をスペイン南西部アンダルシア地方のカディス県にあるボデガ(シェリー生産者)から直接調達しています。

ハイドのシェリーフィニッシュウイスキーは、こうした伝統的なスペイン産オロロソシェリー樽で熟成されたものです。

ウイスキー業界の大半は、熟成工程のすべてで米国のバーボン樽を利用していますが、ハイドではバーボン樽で熟成を開始し、フィニッシュにはシェリー樽を利用しています。

シェリーはスペインの白ワインで、ぶどうを蒸留したスピリッツを加えて酒精強化したフォーティファイドワインです。 シェリーとウイスキーがオーク樽で出会い、熟成していきます。

シェリーの強い酸味と低めのアルコール分は独特な影響を樽に与え、樽板から水溶性の香味が引き出されます。 シェリー樽で熟成されたウイスキーでは、この2つの要因が組み合わさることで、独特かつ顕著な変化が見られます。 実際、ウイスキーの熟成にこれほど劇的な影響を与える樽は他にはありません。

スペインのオロロソシェリー樽で熟成させると、深くダークな色味とナッツのような香りを持つ、色、スパイス、ドライフルーツ風味が特徴のウイスキーになります。一方、米国のバーボンオーク樽使用の場合、それよりも軽くて甘い、バニラやバタースコッチの風味が特徴です。

 

オロロソシェリー樽。スペイン南西部のカディスから調達

ラム樽

ハイドの200Lヴィンテージダークラム樽はカリブ海のバルバドス島から直接調達したもの。

私たちは、ウイスキーの厳選や熟成、管理に膨大な時間を費やし、熟成するウイスキーとその熟成が進む樽の影響との絶妙なバランスを実現してきました。

ハイドは、蒸留そのものよりも熟成の工程が重要であることを経験上知っています。

そして、ハイドのウイスキーがもたらす最終的な味わいは、そのウイスキーが熟成していた樽と環境からもたらされた結果そのものであることも知っています。 ――すべては樽で決まるのです。

HYDEアイリッシュウイスキーの熟成に使用する樽は、直接現地でひとつひとつ厳選したものであり、熟成工程にとって最適なヴィンテージ樽以外は選んでいません。

カリブ海ラム樽。バルバドス島から調達

バーガンディ樽

この赤ワインのバーガンディ樽は、フランスのブルゴーニュ地方ディジョン近郊にあるワイン産地コートドールのもの。

バーガンディ赤ワインはピノノワールから造られており、ブドウ全体を潰してから発酵させています。

HYDE No.5 バーガンディフィニッシュは、米国のバーボン樽で6年間熟成させてから、フィニッシュとしてフランスのバーガンディ赤ワインオーク樽(228L)でさらに9カ月間寝かせます。

こうして、HYDE No.5 シングルグレーンのルビーレッドの素敵な色調が生まれるのです。

フランスのバーガンディワイン樽。ブルゴーニュ地方のコートドールから調達

樽の管理

樽の管理とは、熟成に合わせて樽からサンプルを採取して、ウイスキーを瓶詰めする時期や、熟成期間延長の是非を判断する一連の工程です。

需要や必要性にとらわれることなく、樽がその可能性を最大限に引き出せる方法を習得することは何よりも難しいスキルであり、同時に、私たちが自負するスキルでもあります。

ウイスキーが樽の中にある時間が長ければ長いほど、より多くのサンプル採取が必要になります。これは適切な瓶詰めの時期をつかみ、複雑かつ繊細、そしてバランスの取れたウイスキーを造りだすためです。

定期的に樽からサンプルを採取し、ウイスキーの熟成とバランスが完璧なレベルに達しているか見極めます。

最初のニューメイクの原酒は、好ましい香味だけでなく、「ハーシュ」や「メタリック」と表現される、尖った望ましくない香味を伴う場合もよくあります。

上質な樽であれば、時間の経過とともにこうした成分を取り除いていきます。これは、ウイスキーが樽材と内側の炭化層を通して呼吸しているからです。

樽の貯蔵庫
コーク州でゆっくりと優しく熟成

大西洋を流れる暖かなメキシコ湾流のおかげで、とても穏やかな海洋性特有の気候に恵まれ、アイリッシュウイスキーの熟成に最適なコーク州。

この地域はアイルランド南西部最果てに位置する海岸沿いで、夏も冬も温暖でアイルランドの他の地域には見られない独特な局所気候が特徴です。 西ヨーロッパ屈指の温暖で穏やかな気候として知られています。

大西洋のメキシコ湾流で暖かいコーク州沿岸は、ほとんど熱帯と言ってもよいほど緑が豊かです。 気温は、アイルランドの他の地域ほど下がらず、雪が降ったという話はほとんど耳にすることはありません。降雨は平均を上回るものの、気温はアイルランドの平均より暖かく、晴天の日も多くあります。 コーク州で気温が氷点下を下回る、または、25℃を超えることは滅多にありません。

この湿気が多く温暖な局所気候の影響は、コーク州を訪ねるとすぐに分かります――目に入るのは、豊かに育った亜熱帯特有の草木や、トロピカルな趣の庭で咲く南国の花々。 アイルランドの他の地域では決して定着しないようなイタリアの植物や本物のヤシの木も、コーク州では青々と茂っています。 他にも、フクシア・マゲラニカ(ツリウキソウ)がこの地域のシンボルとして地元で親しまれています。

ビジネスは成長しなくても、亜熱帯の植物ならよく成長する温暖なコークの気候には、回復力のような何かがあります。

アイルランドの他の地域とは違うコーク州は“一種独特な場所です”。HYDEシングルモルトアイリッシュウイスキーでその独特な違いを味わうことができます。

樽の影響

HYDEアイリッシュウイスキーの最終的な風味の80%を決めるのは、オーク樽の熟成です。

木樽のタイプと熟成期間で、香味はいかようにも変わります。どのくらいの期間熟成していたのか、使用された熟成庫はどのようなタイプなのか、さらには熟成庫内の具体的な保存場所や樽の向きも影響を与えます。

木樽が生み出す最終的な香味は、オークの原産地、それまでの樽の中身や使用回数、樽の大きさ、樽板の幅、樽板の状態、熟成の環境、入れる前の“トースティング”や“チャーリング”の度合いなど、さまざまな要素で決まります。

オーク樽由来のバニラのアロマは特徴的なものだけでも6種類以上あります。また、こうした香味が十分ウイスキーに溶け込むには、“たっぷり6年”はかかります。

6年以上熟成したウイスキーは、バニラの香りがより際立ちます。樽の香りにはその他にもメープルバタースコッチやブラウンシュガー、カラメル、ジンジャー、クローブ、トフィー、シナモン、ナツメグ、オレンジ、グラハムクラッカー、クルミ、アーモンド、バター、アニス、ベーコン、焙煎ナッツ――枚挙にいとまがありません。

分子は踊る

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植物細胞壁の図
ウィキメディア・コモンズ経由パブリック・ドメインで使用許諾済み

オークにはウイスキーの熟成に影響を与える主要化学構成物質が5種類含まれています。

1. セルロース

名称が示しているように、この成分は主にグルコース(単糖)で構成されています。 ただし、熟成したスピリッツの顕著な香味要素にはどれに対しても一切影響を与えません。その代わりに、木材を結びつけるのに役立つ結合剤、つまり、ポリマーとして機能します(つまり、樽板をしっかりとつなぎとめなければならないオークには不可欠な物質)。 有効性が非常に高いセルロースは、自然界で最も多く存在するポリマーです。

2. ヘミセルロース

ヘミセルロースも糖類のポリマーですが、セルロースのようにグルコースだけで構成されているのではありません。グルコースをはじめ、キシロース、マンノース、ラムノース、アラビノース、ガラクトースなどの複数の糖で構成されています。 何よりも重要なのは、この構成糖はグルコースよりも結びつきがはるかに不安定であるため、熱など、環境の劇的な変化により刺激を受けた場合、各糖に分離できるという点です。 こうして新たに活性化したヘミセルロースの糖縮合時副生成物(フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、マルトール、シクロテン)が、軽くトースティングされた樽から、深いブラウンの色味や、ほのかなアーモンドやクルミ、バター、メープルの香りをもたらします。  熱が上昇してチャーリングのレベルまで達すると、このような香味のほとんどは、芳醇なカラメルとトフィーの香りにかき消されます。 ヘミセルロースが色と香味に変わり始めるには、140℃以上の熱で活性化されなければなりません。樽の内側をひとつひとつ直火でチャーリングするのはそのためです。

3. リグニン

硬材があるところには、必ずリグニンがあります。 リグニンもポリマーで、グアイアシル核とシリンギル核という2つの核で構成されています。 甘くスパイシーなアロマ(特にバニラ)が生じるのは、この2つが組み合わさった結果に他なりません。なお、“バニラ”という名称はその主成分の化学物質“バニリン”に由来します。 リグニンのコンジナーは、熱が少しでも加わるとすぐに放出されます。しかし、トースティングやチャーリングでしっかり焼き入れしていると、リグニンはさらに分解されて揮発性フェノールとして蒸発します。そのフェノールがもたらすのがスモーキーな香味です。

4. タンニン

なめし革や染色用のなめし剤(タンニング)の始まりは、タンニンから抽出したものでした。 自然界にはタンニンを含むものが数多くありますが(ブドウの皮など)、オークのタンニンは独特で、そのほとんどが加熱せずとも水を加えるだけで分解します。 そのため、オークのタンニンは加水分解性に分類されます。

主に樹木の栄養を蓄える役割を担うタンニンですが、樹木を火やバクテリアから守るのにも役立ち、苦味のある天然の虫よけになります。これはちょうど、コーヒーの木(コーヒーノキ)が苦味のある殺虫剤としてカフェインを生産するのと似ています。 加水分解性であるタンニンの特性を生かして、樽を使う前にシーズニングを行い、オーク材から苦いタンニンを大量に取り除きます。 ただし、ウイスキーを酸化させて、火を通したリンゴのような香りをプラスするためには少量のタンニンが必要です。 とはいえ、何よりも重要なのは、長期間にわたる熟成でタンニンが担う役割です。 オーク材の化学物質が時間をかけてゆっくりとスピリッツの中の酸素分子と反応し、ジエチルアセタールと呼ばれる新たな化合物が生成されます。 この新しい化合物のおかげで、ハイドのウイスキーのように10年以上熟成させたものであっても、芳醇かつ複雑なトップノートが残ります。決して、奥行きのない、ぼんやりとした香りにはなりません。

5. ラクトン

これまで説明した成分とは違い、ラクトンは熟成の1年目で放出されるので、真新しい米国産ウイスキーバレルには特に重要です。 ポリマーでも糖化合物でもないラクトンは香味要素のひとつであり、特定のオイルや可溶性脂肪、蜜蝋など脂質として知られている物質の影響を受けます。スピリッツに感じられる独特なココナッツのウッディな味わいはこの成分から生まれています。 あらゆるタイプのオークに含まれているラクトンですが(例外はアジア原産のミズナラ。滅多に使用されません)、最も多く含まれているのはアメリカンホワイトオークで、ファーストフィルの樽の熟成1年目にこの香りの特性をほとんどすべて放出します。 そのため、バーボンやテネシーウイスキー、ライウイスキーはいずれも、アイリッシュウイスキーに比べて植物系由来の特徴が際立っています(アイリッシュウイスキーの場合、香りは甘くて滑らかなポリマーの影響をより多く受けます)。 アリゲーターチャーリングの効果が薄れてきたときに、しっかりとシーズニングを施し、軽くトースティングすると、樽はさらにラクトンを出せるようになります。

オークが熟成に与える影響

シーズニングと熱処理の後

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オークの構造および熟成に与える影響の概要 – 出典 Distillers.org

樽のトースティング vs チャーリング

トースティング

樽造りでは、樽の内側に直火やオーブンで“トースティング”もしくは“チャーリング”を施すことが可能です。 トースティングはチャーリングの前に、ゆっくりと長い時間をかけて弱火で行います。 トースティングでは、樽内部の樽材に決して直接炎を当てません。

トースティングを行うと、樽材の天然セルロースからバニリンが放出します。また、樽材の内部ではリグニンやセルロース、ヘミセルロースといった化学物質が分解して、樽からさまざまな香味やアロマが生成されます。

この優しいトースティングの工程は、樽材に含まれる天然のタンニンを円熟させるだけでなく、加工前の樽板にありがちな尖った香りにも変化を与えます。 その結果、ウイスキーは滑らかさとスパイシーさが増し、バニラの香りが長く残るようになります。

トースティングには軽いトースティングからしっかりとしたトースティングまで、さまざまな焼き具合があります。 想像に違わず、焼き具合によって、ウイスキーの最終的な味わいにさまざまな影響を与えます。 しっかりトースティングすればするほど、オーク樽が与える最終的な香味のインパクトが強くなる――それが基本です。

チャーリング

チャーリングとは、トースティングよりも短時間で焼きの強度が高い高熱処理のことで、木樽の内側を1分ほど直火で焼きます。 焼き付けることで、樽の内部が“炭化”し、ひび割れが生じます。

チャーリング、つまり、炭化するということは、トースティングを超えて一部が焦げた状態になるということです。実際、チャーリングを施した樽は内側が黒く見えます。 炭化層は3.175mmになります。

このようにして直火でチャーリングされた樽材が、自然の活性炭フィルターとして機能し、もともとの“ニューフィル”ウイスキーから不快な味をもたらす硫黄成分を取り除き、滑らかな味わいのウイスキーへと仕上げていきます。 樽材の割れ目を直火でチャーリングすると表面が開くので、ウイスキーが樽板に浸透し、深く濃い最終的な色合いへと変わります。また、カラメルと蜂蜜の滑らかな香りと、はっきりとしたスパイシーな香味が加わります。